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第947話
この店主、仕事の邪魔をすると怒ってくるタイプなのだが、このままずっと店先に突っ立っているわけにもいくまい。
仕方がないので、怒られるのを覚悟で耳元で叫んでやった。
「あの! こんにちは!」
「どわ!」
さすがに今のは聞こえたらしく、店主は飛び上がって耳を押さえた。
「バカヤロウ! 仕事中に話しかけんじゃねぇ! あと大声出すな! 耳鳴りがするわ!」
「すみません。何度か呼びかけたんですが、気付いてもらえなかったので」
「だったら仕事中でも気付くように配慮しろ! 剣を研いでる腕を落とすとか、後ろから背中を切るとか!」
「さすがにそこまではできませんよ……」
……いくらここがヴァルハラだからって、随分過激なことを言う店主である。
というか、館の棺はオーディンの眷属 専用のものじゃなかったっけ? 小人族が入っても復活できるものなんだろうか……。
――まあいいや。
気を取り直して、アクセルはノコギリと玉鋼を出した。
「ノコギリの切れ味を強化したいんです。この玉鋼を使って、何とかなりませんか?」
「あぁ? じゃあそこに置いておけ。これが終わったらやっておくからよ」
「あ、はい……。ありがとうございます」
言っていることは無茶苦茶でも、仕事はきちんとやるんだな……と、アクセルは近くの作業机にノコギリと玉鋼を置いた。
作業机には他にも様々な武器や材料が置かれており、アクセルの前にもたくさんの依頼をされていたのだということが窺える。これだけ仕事が溜まっているとなると、ノコギリの錬成にもそれなりの時間がかかるのではないか。
「あのー……」
「あぁん? まだ何かあるのか?」
「いや……ノコギリが仕上がるのはどのくらいかかるのかな、と」
「んなもんわかんねーよ。他の仕事が終わり次第だ」
「で、ですよね……。ええと、そしたら明日また来ればいいですか?」
「あーもう好きにしろ! 仕事の邪魔だからさっさと出てけ」
「は、はい……! すみません!」
完全に怒られてしまい、アクセルは急いで鍛冶屋を退散した。
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