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第952話

 相変わらずアロイスは、ランゴバルトへの憧れを強く持っているようである。確かにあの人なら、丸太七本くらい片手で持ち上げてしまいそうだ。  アクセルは少し苦笑して、言った。 「アロイスは、どのくらい鍛錬したらランゴバルト様みたいになれると思う?」 「どのくらいって……そんなのわかんねぇよ。鍛錬してれば、いずれランゴバルト様みたいになれるんじゃねぇの?」 「どうかな……。ランキング一桁の人たちはみんな化け物みたいな天才ばかりだからさ……。俺みたいな凡人じゃ、どう頑張っても追いつけないなって思うことも多々あるんだ」  普段から兄と一緒に暮らしていると、事あるごとに兄との実力差を思い知らされる。遠くから眺めているうちは憧れているだけで済むが、近づけば近づくほど、圧倒的な実力に打ちのめされる。自分なんかじゃ絶対に追いつけないなと、自信を失くしてしまう。  ――俺も、何度心が折れたか……。  視線を落としていると、アロイスは腰に手を当てて言った。 「なんだ、アクセルってそんなこと考えてんのか。意外とネガティブだな」 「……しょうがないだろ。身近にあんな強い人がいると、嫌でも自分の実力を思い知らされるんだよ」 「そうかー、大変だな。オレは単に、ランゴバルト様みたいになりたいって考えながら鍛錬してるのが楽しくてよ。そういう明確な目標があると、今よりも強くなれる気がすんだよなー」 「あー……まあ、目標が明確なのはいいことだけどな」 「だろ? 実際になれるかどうかはわかんねぇけどさ、その人に近付くために努力することは決して無駄なことじゃないじゃん。それに、目標なんてのはそう簡単に追いつけないから燃えてくるもんでさ。そんなすぐに達成できたら、乗り越える楽しみがないっつーか」 「なるほどな……。そういう考え方もあるのか」  確かに、そう簡単に追いつけてしまったら逆に張り合いがない。兄に追いつき、追い越せたとしても、次の目標が何も思いつかなくて腑抜けになるかもしれないし……それだったら、目標はいつまでも目標として遠い場所にあった方がいいのかも。

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