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第971話

 アクセルは短いスカートを懸命に延ばし、顔を赤らめて呻いた。 「うう……兄上の馬鹿……」 「まあまあ。この格好で外出ろって言ってるわけじゃないんだから、そんなに怒らないの。スリル満点でドキドキするでしょ?」 「するけど、こんなのただの羞恥プレイだよ……」 「いやいや、これも鍛錬の一環だって。何があっても動じない精神を鍛えるんだと思ってさ」  ……こんなことで精神が鍛えられるとは思えないのだが。  ――何でヴァルハラに来てまで、スカートにノーパンで過ごさなきゃならないんだ……。  しかも尻には例のボールが入っていて、下肢の重苦しさは変わらない。自分は一体何をやっているのかと呆れ果てる。  それでも夜までの辛抱だと自分に言い聞かせ、あと数時間だけ我慢しようと己を奮い立たせた。 「……せっかくアロイスに木材切り出してもらったから、なるべく早く小屋と露天風呂を作りたい。それと、アロイスにお礼も持って行かないと」 「お礼って、何を持って行くの?」 「肉と豆を煮込んだスープをリクエストされた。そのくらいなら市場に行けばいくらでも食べられると思うんだけどな……」 「そうなんだ? じゃあ今のうちに煮込んでおくといいよ。明日になったら持って行きなさい」 「わかった」  明日にはボールを抜けるし、下着も穿けるし普通の格好に戻れる。  そう思いつつ、アクセルは気を紛らわせるようにキッチンに立った。肉や野菜を切り刻み、鍋に投入してぐつぐつ煮込む。  それと並行して自分たちの昼食も作った。  ――しかし、アロイスが好きなスープってどんなのだろうな……?  一口に「スープ」と言ってもいろいろな種類がある。水みたいにサラッとしているものもあれば、シチューのようにとろりとしているものもあるだろう。彼と一緒に食事したことないので、味の好みもわからない。  どうせなら詳しく聞いておけばよかった……と思いつつ、とりあえず無難な塩コショウで味付けした。

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