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第999話
そう言われてしまい、アクセルは少し唇を尖らせた。
「……だから言いたくなかったんだよ。兄上に言ったら絶対『くだらない』って言われると思ったから」
「ごめんね。お前が悩ましい顔をしてると、つい気になっちゃって。可愛い弟の悩みは、お兄ちゃんが解決してあげないといけないじゃない?」
「…………」
「でも、お前が気にしてる『似てる・似てない』問題は、いくら悩んだところで解決しないと思うんだ。血の繋がりがあったって、容姿や性格が似てない兄弟なんていくらでもいるし、先天的なものはもう変えることはできない。どんなに『金髪がよかった』って思ったところで、髪の色を変えることは不可能だ」
「それは……」
「だから悩むだけ無駄なんだよ。似ていても似ていなくても――万が一血が繋がっていなくても、私はお前を愛している。目に入れても痛くないくらい可愛い弟で、唯一無二の大事な家族だと思っている。今さっきも、足腰が立たなくなるくらい愛してあげたじゃない? それじゃ足りないの?」
「あ、いや……そういうわけじゃないんだ、うん……」
確かに兄には、もったいないくらい愛してもらっている。助けて欲しい時にはいつも助けてくれるし、強くなるための秘訣だって教えてくれる。愛情という意味では、もう十分過ぎるくらい注いでもらっていた。それはわかっている。
アクセルは小さく苦笑して、兄の髪をお湯で濯いだ。そして言った。
「……いや、すまない。兄上に愛されていることは俺が一番よくわかっているんだ。でも、それとは別に、時々ちょっとだけ不安になる。何というか、こう……定期的にかかる風邪みたいなものかもしれない」
「風邪?」
「俺はこんなだから、すぐトラブルに巻き込まれて兄上に迷惑をかける。それでも愛想を尽かさずフォローしてくれるのは、血の繋がった弟だからだろ? でも実の兄弟だと主張するにはあまりに似てないから、『もしかしたら俺は、赤の他人なのに兄上に迷惑をかけ続けているのかも』って不安になることがあるんだよ」
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