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第1000話
「…………」
「兄上との違いや、自分の間抜けさが浮き彫りになった時なんか、特にな。普段はあまり考えないようにしてるけど、時々ふとした拍子にそういう思考に嵌まってしまうというか」
「ふーん……?」
「兄上も、俺のネガティブ思考に毎回付き合うのは面倒だろ? そういう時は『また始まったよ』って軽く流してくれればいいから……。一晩眠れば気持ちも切り替わるだろうし、あまり真面目に考えないでくれ」
ネガティブな思考に嵌まりつつも、冷静な自分は「考えてもしょうがない」とわかっているのだ。所謂「弟の定期的な病み」にいちいち兄を付き合わせるのも申し訳ないし、兄自身も面倒臭いと思う。
だからそういう時は、面倒を見てあげようと思わずに、むしろ放っておいてくれた方がありがたい。こちとら、兄に余計な迷惑をかけたくないし。
――だったらそんなこと考えるなよ……と言われそうだが、こればかりは「定期的な風邪」だから無理なんだよな……。
などと開き直ったことを考えていると、兄が前を向いたまま穏やかに言った。
「そうかい。お前がそういうなら、私はあまり気に掛けないようにするよ。お前のことを見ていれば、直接言われなくても何考えているかだいたいわかるし」
「そ、そうか……」
……はて、自分はそんなにわかりやすいんだろうか。そこまで顔に出ている自覚はないのだが。
「でもこれだけは言わせてね。私がお前の面倒を見ているのは、お前がお前だからだよ」
「えっ……?」
「私はお前自身が可愛くて可愛くて仕方ないんだ。実の弟とか血が繋がっているとか、そういうことは関係なく、一人の人間としてお前を愛してる。お前が何をやらかしても愛想を尽かすことはないし、ピンチになったら必ず助けてあげるよ。だいたいお前がトラブルを起こしたくらいで嫌になるんだったら、ヴァルハラに来てまで一緒に暮らしてないって」
……それもそうか。生前、子供の頃から自分は兄に迷惑かけまくりだったし、それで愛想を尽かすくらいなら「ヴァルハラで待ってる」なんて言わない。
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