1001 / 2012
第1001話
納得して頷いたら、兄が首を捻ってこちらを見た。
「お前は、もし私と血が繋がっていなかったら、私のこと嫌いになっちゃう?」
「えっ!? いや、それは絶対にない! 万が一兄上と血が繋がっていなくても、俺は兄上のことが一番好きだ!」
「ふふ、ありがとう。私もお前のことが一番好きだよ。例え血が繋がっていなくても」
「……!」
「人の気持ちっていうのは、血の繋がりに左右されないってことさ。肉親の情みたいなのもあるかもしれないけど、私はあまり信じてない。……本当にそんなものがあるのなら、巫女が私たちを捨て駒にするはずないし」
「兄上……」
「つまりそういうことさ。お前が時々『風邪』をひくのは勝手だけど、お兄ちゃんはいつもお前のこと想ってるって、しっかり頭に刻んでおくんだよ」
諭すような兄の言葉が、すとんと胸に落ちてきた。
この兄はずっと変わらない。アクセルがどんな振る舞いをしても、どんなにネガティブな思考に嵌まり込んでも、変わらずこちらを愛してくれる。
それをちゃんと心に留めておけば、何度「風邪」をひいても大丈夫なはずだ……きっと。
「……はい、兄上」
もう一度ザバーッと兄の髪をお湯で濯ぎ、今度は石鹸を泡立てて背中を流した。
兄は心地よさそうに椅子に座っていたが、少し首をかしげてこんなことを言い出した。
「それにしても、お前のその『誰かと比べちゃう癖』ってどこから来たのかなぁ? 私はほとんど比べずに育ててきたつもりなんだけど」
「……比べてるか?」
「思いっきり比べてるでしょ。『兄上よりも云々』とか、いつも言ってるじゃないか」
「あー……そうか。そういうのも比べているうちに入るんだな」
自分では比べていたつもりはなく、常に兄を目標にしていただけなのだが。
「影響があったとすれば、生前にお世話になってた小隊長とかかなぁ? あの人、よく隊員を比較して競争を促してたもんね」
「それもあるが、町のおばさま方もそれなりに……」
「おばさま? 噂好きの主婦たちのこと?」
「……ああ」
少し苦い顔をして、アクセルは続けた。
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