1002 / 2012

第1002話

「兄上は昔から美人で強かったけど、俺はどちらかというと平凡だったからな……。何かにつけて『あなた達、あまり似てないわね』ってよく言われたものだった」 「ええ? そんなこと言われてたの? 『うるさいよ』って一蹴してやればよかったのに」 「う、うん……。今なら笑って流せると思うが、昔は何でも真に受けてしまって……。『そんな何度も指摘されるくらい兄上と似てないのか』ってかなり気にしていたんだ。それを今でも引きずっている感じかな……」 「えーっ? じゃあお前が定期的な風邪にかかるのって、昔のおばさま方のせいだったの? すごい迷惑なんだけど」  かなり不愉快そうに眉間にシワを寄せる兄。一から弟を育ててきた身としては、無責任な他人のせいで弟が変な影響を受けたことが許せないみたいだった。  アクセルは慌てて言った。 「今思えば、そうかもしれないなっていう話だ。兄上は、子供の頃に言われた何気ない言葉がいつまでも引っ掛かってることって、ないのか?」 「うーん……私はそういうの、あまり気にしないで生きてきたからなぁ……。それこそ、『うるさいよ』って言い返してたし」 「そうか……兄上は強いな」  兄みたいなメンタルが備わっていたら、自分もここまで軟弱にならなかったかもな……などと考えかけ、また比べていることに気付いてこっそり苦笑いした。  どうも自分は、兄と比較することが癖になってしまっているらしい。 「あ、でもお前がまだ生まれてくる前、名も知らないお兄さんに言われたことだけは心に残ってるなぁ」 「えっ……?」 「『今から数年後にあなたの弟が生まれるから、大事にしてやってくれ』みたいなことね。一人で寂しかった時に言われたから、妙に覚えてるんだよなぁ……。しかも本当に数年後にお前が生まれたし」 「! それは……」  それは自分が言ったことだ。ラグナロクが起こっている最中、フェンリルの城の近くでそのような過去の幻を見た。その時に自分が言った台詞が、本当に過去の出来事として兄に影響を与えていたのだ。

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