1003 / 2012
第1003話
どういう仕組みになっていたのか今でもよくわからないが、とにかく今の自分がかつての兄に接触したことは確かである。
もっとも兄は、あれが成長した弟だとは認識していないみたいだけど。
「あの人、なんでそんなことわかったんだろ。占い師か何かだったのかな。それとも、テキトーなこと言ったらたまたま予言が的中しただけだったのかな」
「…………」
「まあとにかく、その人の言葉はずっと心に残ってるんだ。だからってわけじゃないけど、お前が生まれてきた時は本当に、命懸けで大事にしようって思った。血が繋がっていようがいまいが、私にとっては唯一無二の家族だったからね。お前がどう思おうが、その時からお前は私の宝物なんだよ」
鏡越しににこりと笑ってくる兄。
――ああ、もう……。
思わず泣きそうになり、アクセルは兄の背に抱きついた。
兄の言葉を聞いていたら、血の繋がり如きであれこれ悩んでいた自分が恥ずかしくなってきた。
「ありゃ。どうかした?」
「……いや、兄上の弟でよかったと思っただけだ」
「そうかい。私もお前がいてくれてよかったよ。事情はどうあれ、お前が生まれてこなかったら私はずっと独りぼっちだったもの。いくら何でも、それは寂しすぎる」
「…………」
「これからも側にいてね。私はお前が思っているより寂しがり屋だから、勝手にどこかに行くのはナシだよ」
「……ああ、もちろんだ。こんな俺でよければ、ずっと側にいさせてくれ」
自分はこんなだから、何度だって同じようなピンチに陥るし、その度に兄に迷惑をかけると思う。自分では気をつけているつもりでも、どうしようもない時だって訪れる。
そういう時は、気にせず兄を頼ってしまおう。この兄なら、きっと迷惑なんて思わずに助けてくれる。
その代わり自分は、なるべく兄が寂しくならないよう、側で世話を焼いてあげる。ご飯を作ったり背中を流したり、鍛錬したり……時には一緒に寝たり。自分にできることはそういう簡単なことだけど、兄の孤独を癒せるのはそんな当たり前の日常なのかもしれない。
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