1007 / 2012

第1007話

 ――ピピも強くなったよなぁ……。  かつては手のひらに乗っかるほど小さくて、オオカミが現れると脅えて隠れてしまうようなうさぎだったのに。それが自ら狩りの手伝いを名乗り出るとか、随分たくましくなったものだ。身体が大きくなったのもあるだろうが、番犬並みの頼もしさがある。  微笑みつつ、アクセルは隣を歩いているピピを撫でた。 「ありがとう、ピピ。じゃあ今度狩りに行く時はついてきてくれ。頼りにしてるよ」 「ぴー♪」 「さて、いつ行こうかな……。なるべく早い方がいいけど……明日はダメだし、明後日は……。そういや、次の死合いっていつだったっけ……」  一人でブツブツ言いながら、庭を歩き回る。  そうしてウォーキングを続けていたら陽がだんだん傾いてきたので、家に戻って夕食の準備をした。兄の好きなステーキ用の肉を切らしていたので、干し肉を切り刻んでシチューにした。本当に、よく食べる人が家にいると食料がすぐなくなる。 「ねえ、これ味見しちゃダメかな」  兄が豆のスープが入った鍋を覗き込み、チラチラとこちらに視線を送ってきた。もうすぐ食事も出来上がるんだから、それまでおとなしく待っていて欲しい。  さすがに呆れてしまい、アクセルは溜息混じりに答えた。 「……それはアロイスに届けるスープだぞ。ダメに決まってるだろ」 「でも、味見をして確かめておいた方がいいじゃない?」 「兄上は『味見』と称してがっつり食べちゃうからダメだ。それに、味見はもう俺がしておいたから問題ない」 「えー……?」 「そんなに腹が減ってるなら、宴会場にでも行ってイノシシのシチューを前菜に食べてきたらどうだ?」  冗談のつもりでそう言ったら、兄は真顔になってポンと手を打った。 「あ、なるほど。その手があったか。じゃあ今からパパッと行ってくるね」 「……え?」 「すぐ戻って来るから、ちょっと待ってて」  止める間もなく、兄はつむじ風のように家を飛び出して行ってしまった。

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