1016 / 2012

第1016話

 兄に言われた通り、変な男に目をつけられないよう気をつけて歩いた。とりあえず、今のところは問題なさそうだ。 「おはよう。アロイス、いるか?」  小屋の前で台車を止め、木製のドアをノックした。中からはドッタンバッタンと大きな音が聞こえてくるので、本人がいることは明らかである。  ……が、作業音がうるさくてノックの音が聞こえていないらしい。 「おーい! アロイス、俺だよ! ちょっと作業中断して出て来てくれないか?」  先程より声を張り、ドアも強めに叩いたら、ようやくアロイスが出て来てくれた。何故か頭にハチマキをして、汗だくになっている。 「おっ? アクセルじゃん。今日はどうしたんだ? 木材が足りなくなったのか?」 「いや、台車を返しに……。それと、お礼の豆のスープも持ってきたぞ」 「おっ、マジか。助かったぜー! 今日の朝メシ、どうしようかと思ってたんだ」  ハチマキを解き、それで汗を拭うアロイス。一体室内で何をしていたんだか……。 「……まあいいや。ところで、昨日アロイスが渡してくれたボールチェーンみたいなやつ、とんでもなくいかがわしい道具だったぞ。兄上に使い方教わったらエラい目に遭った」 「え? そうだったのか? どうやって使うんだ?」 「それは……その、ちょっと口では言いづらいんだが……」 「なんだ、そんなにヤバい道具だったのか。全然知らなかったわ」  ……仮に知っててアクセルにあれを貸し与えたのなら、アロイスも相当性格が悪いと思う。 「……とにかく、今後はああいう変な道具を借りてくるなよな。そういう趣味があると誤解されても困るし」 「おう、そうだな。やっぱりトレーニングは道具に頼っちゃダメだよなー!」  ……ちょっと論点がズレているが、これ以上被害が増えないのであればそれでいい。 「んで、これが作ってくれたスープってわけね」  アロイスが台車の鍋を開け、スープの匂いを嗅ぐ。持ってくる直前に温め直したから、ちょうどいい温度になっているはずだ。

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