1020 / 2012

第1020話

 そんなことを考えつつ、アクセルは建物の表に回って正門を叩いた。 「ごめんください。ランゴバルト様、いらっしゃいますか?」  なるべく声は張り上げたつもりだが、それに応答する者はいない。ランゴバルトのことだから、スムーズに出て来てくれるとは思っていなかったが、だからと言って勝手に敷地内に入ったらその時点で首を切られそうだ。  そもそも、今の時間帯にランゴバルトが家にいるとは限らず、もしかしたら外で狩りをしているかもしれないし、死合いを行っている可能性もある。彼が留守だった場合は無駄足になるわけだ。  ――でも、ここまで来たのに手ぶらで帰るわけにもいかないしな……。  せめているのかどうかを確かめよう。それから帰っても遅くはない。  もう一度門を叩いて、数分待っても返事がなかったので、思い切って敷地内に入った。そして今度は建物の正面玄関の扉を叩き、同じように「ごめんください」と呼びかけた。  すると、 「はーい!」 「……えっ?」  ランゴバルトのものではない、ボーイソプラノの返事が聞こえた。  数秒後、パタパタという足音と共に建物の裏手から小柄な少年が走ってきた。肩までのおかっぱ頭で、腰に白いエプロンをしている。 「すみませーん! 庭仕事してて気付かなくて。お待たせしちゃいましたね」 「ああ、いや……大丈夫だが……」 「ランゴバルト様のお客様ですよね? 生憎、今ランゴバルト様は模擬戦の真っ最中でして。応接室でお待ちになられますか?」 「あ、ええと……模擬戦っていうのは、庭の闘技場で?」 「はい。狩りや死合いがない時、ランゴバルト様はよくゲストを呼んで闘技場で模擬戦を行うんです」 「そうなのか……。ところで、きみは?」 「僕ですか? ここでランゴバルト様のお世話をさせていただいている、コニーです。よろしくお願いします」 「よろしく……。というか、ランゴバルト様に従者なんていたんだな……」  あの人は自分と同等の戦士(エインヘリヤル)以外は全員見下している節があるから、下位ランカーの従者なんていないものだと思っていた。

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