1029 / 2012
第1029話※
「……おまエ、わたしのこときらイになったノ?」
兄が声を低くしてそんなことを言い出す。その顔は年端もいかない駄々っ子のようだった。
アクセルは小さく首を振った。
「……違うよ。好きだからこそ耐えられないんだ。今のあなたは本来の兄上じゃない」
「わたしはわたシだよ。それいじょうでモそれいかでもなイ。それをおまえハひていするわけ?」
「そうじゃない、そうじゃないんだ。ただ俺は、あなたに正気に戻って欲しくて……」
「だかラわたしはしょうきだってバ。なんどいえばわかルの。そうやってわたしをひてイして、やっぱりおマえ、わたしノこときらいになったンだ」
「だから違……うわっ!」
唐突に蹴りが飛んできて、それが膝の間接にヒットした。
がくんと膝が折れてバランスを崩し、床に転倒する。間髪入れず兄がのしかかってきて、片手でこちらの首を絞めてきた。
「おまエだけはわたしのこト、きらいにならなイとおもってたノに……おまえだケはわたしのみかたダって、しんじてたのニ……」
「ぐ……あ……」
「ねぇアクセル、なんデわたしのこときらいニなっちゃったの? おにィちゃんは、おまえのこトだいすきだよ……」
「っ……!」
ギリギリと首に右手が食い込んでくる。
やむを得ずアクセルは、兄の喉仏めがけて軽く突きを繰り出した。弱点を突かれた兄はぐっ……と仰け反り、絞めていた首から手を離した。
そこを見逃さず、ガバッと上半身を起こして気付けがてら兄の頬を殴った。
兄は近くの壁に叩きつけられ、呻きながらずるずると床に崩れ落ちた。ちょっとやりすぎたが、ここに至ってはやむを得ない。
「うぅ……」
「兄上、落ち着いてくれ! 俺は……」
「いたぃ……いたイよぉ……ひドい……」
「あに……」
「なんデいじわるすルの……? ぼくハただ、ふつうニくらしたいだケなのに……」
「え……?」
「やっぱりみンな、ぼくのこトきらいなんだ……。ぼくをすきなひとなんテいないんだ……」
「……!」
「みんなだイきらい……! うわあァぁん!」
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