1030 / 2012

第1030話※

 今度は号泣されてしまい、罪悪感で胃の辺りがきゅっと縮んだ。  というか、目の前にいる人物は本当に兄・フレインなんだろうか。兄は滅多に弟の前で泣かないし、理不尽に駄々をこねることもしない。  いくら獣化の症状だとしても、あまりに人格が変わりすぎなんじゃないか。獣化とは、その人本来の性格まで変えてしまうのか。  ――……いや、そうじゃないのかも。  詳しいことはまだ理解していないものの、獣化とは、理性が利かなくなって本能が剥き出しになることだと思う。少なくとも初期症状はそんな感じだ。食べることを我慢できなかったり、所かまわず寝てしまったりするのは、本能が抑えられなくなっているからだろう。  更に言えば、本能が抑えられないのは獣だけでなく幼い子供も同じである。お腹が空けば泣くし、眠くなればそのまま寝るし、不満が溜まると泣いて暴れ出す。  そういう意味では、初期の獣化で子供返りが起こる可能性も十分あり得るのかもしれない。  ――子供の頃の兄上って……俺はほんの一部しか見た事ないけど……。  アクセルが生まれる前の兄は、今からは想像できないくらい荒んだ毎日を過ごしていたそうだ。母には捨てられたし、父も戦続きでほとんど家におらず、周りの人達もなかなか助けてくれなくて、全部一人で何とかしなければならなかったらしい。  自給自足できる大人ならまだしも、当時の兄は十歳にも満たない年頃だったはず。空腹で食べ物を盗んだり、寝るところがなくて震えた夜もあっただろう。辛くて泣いても誰も駆けつけてくれず、絶望したこともあったに違いない。  今の叫びは、そんな兄の子供時代を表しているのではないか。弟の前では隠していた兄の闇が、獣化によって暴かれたのではないか。  ――ぼくハただ、ふつうニくらしたいだケなのに。  ――みンな、ぼくのこトきらいなんだ。  ――ぼくをすきなひとなんテいないんだ。  その言葉が、アクセルの胸に重く響いた。

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