1034 / 2012

第1034話

 もしもう一度ピピに会えたら、兄の代わりに謝らなくては。悪気はなかったとはいえ、傷つけてしまったのは事実なのだから。  ……いや、そもそも再会できる可能性は極めて低いのだが。  ――それにしても、これからどうしよう……。  こんな状態の兄を、このまま家に置いておくわけにはいかない。然るべき方法で治療して早く元に戻ってもらわないと、この先一緒に暮らせない。  だからといって無理矢理治療に連れて行っても、暴れて手が付けられなくなる可能性がある。今までの言動から察するに、「治療=隔離=アクセルと離れ離れ」と思っているみたいで、治療を極端に嫌がっているようなのだ。  自分が常に側にいて、兄の治療を手伝えればいいけど……それに関しては可能かどうかわからない。どこでどんな治療が行われて、どのくらいの時間がかかるのか、アクセルには想像できないのだ。  ――前途多難だ……。  軽く溜息をつき、アクセルは泉から上がった。兄の腕はすっかり完治し、しなやかで逞しい腕が左肩から伸びていた。 「……兄上……」  この腕で抱き締められるのが好きだった。幼い頃から自分を守り、育ててくれた手だ。  そんな手を自ら切って食べようとするなんて、考えるだけでぞっとした。もう二度とあんなことさせたくないし、見たくもない。  やっぱり、いくら嫌がられても治療だけは絶対に受けさせなければ。でないと、最終的に破魂されて永遠に離れ離れになってしまう。そんなことになったら、自分だって生きていけない。  問題はちゃんと説得できるかだが……果たして今の状態で、説得して理解してくれるかどうか……。  ――子供返りを起こしてるからな……話にならない可能性もあるんだよな……。  頑張って説得するつもりでいるけれど、どうしても説得に応じなかったら力ずくで連れて行くしかない。  ただ、そうなると暴れる兄を抑えてくれる人が他にも必要だ。情けないが、自分一人では兄を抑えられる自信がない。  しかし、そんなことを頼める人物なんて他に誰が……。

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