1036 / 2012

第1036話

 ――さてと……次は食事の用意だな。  休む間もなく、アクセルは家に戻ってせっせと買ってきた食材を切り分けた。  兄が起きてきてすぐに食べられるよう、消化のいいスープやお粥、柔らかくした肉をじっくり焼き、硬いバゲットを卵と牛乳に浸してフレンチトーストにする。  料理をしながらいつもの癖でピピのスープまで作ろうとしたところで、ふと包丁を握る手を止めた。  ――本当は作る必要ないんだよな……。  一瞬そう思ったけれど、アクセルはあえて野菜をざくざく切り刻み、ピピのスープ鍋に投入した。ここで作るのをやめたら、ピピはずっと帰ってきてくれないような気がしたのだ。 「う、ん……」  テーブルを整えているところで、兄が目を擦りながら起きてきた。 「あっ、兄上……!」  急いで駆け寄り、ふらついている身体を支える。 「兄上、大丈夫か? もう起きて平気か?」 「うん……。まだちょっとねムい……けど、おなかすいタ」 「そうか。胃に優しいものを作っておいたから、たくさん食べてくれ」  ボケーッとしながら椅子に座った兄の前に、ステーキやスープを置く。  兄は未だに眠そうな目をしていたが、出された瞬間ナイフを取り上げてステーキにグサッと刺し、突き刺さった状態のままガブリと肉に噛みついた。  一口サイズに切り分けることもなく、フォークすら使わずにガツガツ食べている兄。それを見たら、再びうっすらと危機感が湧いてきた。  ――このままじゃ、いずれ手づかみで食べるようになってしまうな……。  ナイフやフォークを使ってこそ、理性ある者の食事である。道具を使わないのは獣と同じだ。そうなる前に、ちゃんと治療しなければ……。 「なあ、兄上」  アクセルは向かいに座り、食事をとりながら話を振った。ストレートに「治療に行こう」などと言っても絶対に拒否されると思ったので、あえてこう誘いをかけた。 「お腹いっぱいになったら、ちょっと散歩に行こうか」

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