1041 / 2012

第1041話

「ま、いいや。とりあえずオレはひとっ走り図書館に行って来るわ。テキトーに獣化の本を集めてくればいいよな?」 「あ、ああ……ありがとう。よろしく頼む」  そう言った途端、アロイスはつむじ風のようにダッシュして図書館に出掛けていった。  待っている間、アクセルは再び兄の様子を見に行った。兄は相変わらず起きる気配もなく、静かな寝息を立てている。  ――あなたは今、どんな夢を見てるんだろうな……。  せめて幸せな夢を見ていて欲しい。  今でこそやりたい放題に振る舞っているけれど、これでも兄はずっと苦労して生きて来たのだ。ヴァルハラに来て十年以上経って、弟が合流してようやくやりたいことが存分にできるようになったのだ。  それなのに、ラグナロクは起こるわ弟はいなくなるわ、トラブル続き。ちょっと平和になったかと思えば、今度は獣化だ。  ――なんで兄上ばかりこんな目に……。  せめて自分が代わってあげられたら……と思う。少しくらい兄の不幸を分けて欲しい。  獣化の治療がどんなものか想像できないけれど、少なくとも完治するまで離れ離れになることは明らかだ。  そんなことになったら、兄はまた泣いて暴れるだろうな……。 「おーい、アクセル! 戻ってきたぞー!」  思ったより早く、アロイスがベランダから戻ってきた。玄関を使わないのは彼のこだわりだろうか。 「おかえり、アロイス。ありが……って、え?」  本を受け取りにベランダに行ったら、そこにはアロイス以外に兄の友人たちもいた。 「ジーク様、ユーベル様、ミューまで……一体どうしたんですか?」 「どうって……図書館前でアロイスに遭遇したら、『ちょっと来てくれ』って連行されたんだよ。いきなり何の用だよ?」 「ああ……本当に無粋ですねぇ。これから優雅なティータイムの予定でしたのに」 「僕は暇だったからちょうどよかったよー。アクセルの家に行けば、美味しい料理も出て来るでしょ?」  好き勝手なことを言っている三人。

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