1042 / 2012

第1042話

 頼もしいような騒がしいような微妙な気分になりつつ、アクセルは小声でアロイスに言った。 「……アロイス、よく三人も連れて来られたな?」 「本で調べるより、実際に話を聞いた方が確実だろ? フレイン様の友達なら絶対頼りになるし!」 「う、うん……そうだな……。でも、あまり騒がしくするのはご法度だぞ。兄上が起きてしまう」  本人は「寝てばっかりなのは嫌だ」と言っていたけれど、起きたら起きたで獣化の治療が待っている。きっと辛いことになるだろうから、せめて今はいい夢を見ながらゆっくり眠っていて欲しい。 「……んで? フレインは今どういう状況なんだよ? 結構ヤバいって聞いたけど」  と、ジークが話を振ってくる。  アクセルはやや目を伏せて答えた。 「ええ、まあ……。さっきまでちょっと大変なことになってまして」 「おや。わたくしが聞いた話では、昨日までは普通に元気だったということですが」 「そうなんです……。だから俺も、急激な変化に戸惑っていて。早く治療を受けさせないと手遅れになってしまいます。どこに兄を連れて行けばいいか、わかりますか?」 「それはアレだよ、グロアの隔離施設。世界樹(ユグドラシル)を通って『グロアの隔離施設に行きたい』って思えば、すぐ着くよー」  ミューがペロペロキャンディーを咥えながら教えてくれる。  ――グロアの隔離施設……初耳だな……。  ただ、グロアという名はチラッとだけ聞いたことがある。  バルドルのところに人質に出されていた時、鍛錬の怪我を治す際に傷薬を使ったことがあった。それを調合したのがグロアという話だ。 「その隔離施設に行けば、兄上は治るんですね?」 「手遅れじゃなければな。まあ、治療の最中にも獣化が進んで、残念ながら破魂になったヤツもいるけどさ」 「……わかりました。俺、今すぐグロアの隔離施設に行ってきます。ロクなおもてなしもできなくてすみません」  アクセルはすぐさま寝室に向かい、寝ている兄を背負った。起きるかなと思ったけれど、ちょっと呻いただけで目は覚まさなかった。

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