1043 / 2012

第1043話

 急いで世界樹(ユグドラシル)まで歩いていき、根本で光っているゲートを通り別の世界を目指す。目的地はグロアの隔離施設だ。  ――治療の最中にも獣化が進むんだったら、本当に急がないと……。  隔離すれば安心だと思っていたが、そう悠長なことも言っていられないみたいだ。もしかしたら兄は、セーフとアウトの境目にいるのかもしれない。  気持ちばかりが焦っていき、危うく足がもつれて転倒しそうになった。  それでも何とか世界樹(ユグドラシル)を通り抜け、グロアの隔離施設の前までやってくる。  ――ここが……。  思ったより大きな建物だった。白塗りの壁に小窓が規則正しく嵌められており、正面の門は人の背丈の三倍はありそうな鉄門になっている。とても頑丈で、ちょっとやそっとじゃびくともしなかった。  どこから入ればいいんだろう……と迷っていると、タイミングよく中から白装束の女性が出てきた。  髪はストレートな銀色で毛先も切り揃えられており、眉毛も睫毛も銀色。白装束の衣装は丈が長く、ゆったりしたフードもついていた。というか、常に大きなフードを被っているのでシルエットがてるてる坊主みたいになっている。  ――ええと……あの人がグロアなのかな……?  パッと見た印象は……全体的に「白」という感じだ。こういった施設にいるより、雪山で遭遇した方がそれっぽいような気もする。まあ施設全体も白っぽいから、「清潔感」という意味では非常にしっくりきているのだけれど。  とりあえず話を聞いてみようと思い、アクセルは彼女に声をかけた。 「あの、すみません」 「あら、直接誰かが訪ねてくるとは珍しい。お見舞いですか?」 「いえ、実はこっちの兄が獣化しかかっていまして。急いで治療をお願いしたいんです」 「ああ、オーディン様の眷属(エインヘリヤル)でしたか。眷属(エインヘリヤル)を看るのは久しぶりだわ」  そう言って、ほんのり笑う彼女。

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