1044 / 2012
第1044話
「では、あとはこちらで引き取りますので、あなたはもう結構ですよ。治療が完了したらヴァルハラに戻るでしょう」
どこからか白装束の男たちが現れ、背中の兄を引き剥がしていく。
なんだかやり方が随分と粗暴に思えて、アクセルは急に不安になってきた。治療と称して変なことをされたり、暴れているからってボコボコにされたりしないだろうか。
「あ、あの……お見舞いはできるんですよね?」
「普通の怪我や病気なら可能ですが、獣化の治療はダメです。外からの誘惑を絶たねばなりませんので」
「え……?」
「身内が心配なのはわかりますが、完治させるためには致し方ありません。ご理解ください」
「でも、あの……」
なるべく乱暴しないでくださいね……と言おうとした時、タンカに乗せられている兄が身じろぎした。
「ん……?」
ぼんやりと目を開け、ボーッと辺りを見回す。
自分がどこにいるのかわかっていない様子だったが、いつもの家ではないことがわかると急に半身を起こして暴れ始めた。
「ねェ、ここどコ!? なにしテるの!? どこつれてイくき!?」
「兄上……!?」
「アクセル、たすけテ! へんなやつニつれてイかれる!」
どうにか落ち着かせようと、慌てて駆け寄ろうとしたら、目の前で施設の門がガシャーンと閉じてしまった。頑丈な鉄格子に阻まれ、兄に近付くことができなくなってしまう。
「ちょっと……! ここまでしなくてもいいでしょう!?」
「一度こちらで引き取ったからには、もう接触は禁止です。ご容赦ください」
「でも、あんなの……いくらなんでも可哀想です……」
このままでは運べないからと、兄は強制的に猿ぐつわを噛まされ、両手足を押さえられてタンカに縛り付けられていた。
――兄上……。
見ているだけでも痛々しい。
口を塞がれていても獣のような呻き声は聞こえるし、拘束されながらもバタバタ暴れているのがわかる。いくら治療のためとはいえあまりにも気の毒で、こちらが泣きそうになってしまった。
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