1045 / 2012

第1045話

「兄上……!」  アクセルは鉄格子を掴み、なおも暴れている兄に訴えかけた。 「兄上、俺待ってるから! あなたが健康になって帰って来るのを、ずっと待ってるから!」 「うーっ! うぅ……!」 「だから……どうか治療頑張ってくれ……! 俺も死合い頑張るから……!」  聞こえているかどうかわからないが、精一杯の気持ちを吐露する。  兄はひとしきり暴れた後、急に脱力したようにおとなしくなった。どうやら男の一人に鎮静剤を打たれたみたいだった。  ぐったりとタンカに沈み、意識朦朧としたまま施設内に運ばれていく。  そんな兄を、アクセルはただ見ていることしかできなかった。 「兄上……」  これからは、獣化が完治するまで兄には会えない。見舞いが禁止というのはアクセルにとっても辛いことだが、治療のためだと言われれば従うしかない。  本当は常に一緒にいて、治療のお手伝いをしてあげたいくらいなのに……。  アクセルは視線を落としつつ、グロアに聞いた。 「あの……差し入れとか、手紙はいいんですよね……?」 「それもいけません。外から差し入れられたものは全て誘惑物となりますので」 「そんな……」 「気持ちはわかりますが、ご理解ください。患者を送り届けていただき、ありがとうございました」  淡々とそれだけ言うと、グロアはそのまま施設に戻っていった。  アクセルは鉄格子の外からしばらく施設を眺めていたが、これ以上ここにいても仕方ないのでとぼとぼとヴァルハラに帰った。  ――兄上……大丈夫なのかな……。  運ばれていく時点で随分乱暴されていたが、あんなところを見てしまうと本当にまともな治療をしてもらえるのか少々疑わしくなる。結果的に治してもらえるなら嬉しいけど、その過程があまりにもひどすぎたら家族としては複雑だ。  どんな治療が行われているか、こっそり忍び込んでチェックしたいくらいである。  全身白装束にすれば、怪しまれずに忍び込むことができるだろうか……などと考えつつ、アクセルは家に戻った。

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