1048 / 2012

第1048話

「獣化の治療に何ヶ月もかかると、必然的にランクも下がる。実力で敵わない上位ランカーを引きずり降ろすには、最も手っ取り早い方法だな。しかもやり方によっては、めちゃくちゃリスクも少ないし」 「だから宴会場の食事なんて信用ならないんですよ。いつどこでどんな毒が仕込まれるかわかりませんからね」  と、ユーベルがやれやれと肩を竦める。 「わたくしもヴァルハラにきてそこそこ年数経っていますが、宴会場で食事したことは一度もありません。皆さん、毒殺のことを軽く見すぎです」 「あはは、さすが貴族サマは用心深いねー。僕はそういうの、あまり気にしたことないけどなー」 「……ミューの胃袋はいろんな意味で普通ではないので。とにかく、あなたも宴会場で食事する際は気を付けなさい。運悪く毒に当たる可能性もあるんですから」 「……!」  そう忠告され、アクセルは言葉を失った。そんなことを言われてしまうと、なんか急に飲食が恐ろしくなってくる。外で食事ができなくなる。 「……ユーベル様は、兄が誘発剤を盛られた場所は宴会場だと考えているんですか?」 「十中八九そうでしょう。あそこで提供されるシチュー鍋に誘発剤を仕込んでおけば、不特定多数の戦士に盛れますからね。獣化の気配がない戦士には効果がありませんが、たまたまフレインは引っ掛かってしまった……。そんなところでしょう」 「そう……ですか……」 「ま、いつも変なものが仕込まれてるわけじゃないけどな。ただ、普通に自炊ができるなら家で食事した方が安全だぞって話だ。用心するに越したことはないからな」 「…………」 「ところでー、今日の晩御飯はどうするのー? 食材いっぱい買ってきたんでしょー?」  唐突にミューが話を振って来て、アクセルは「えっ?」と顔を上げた。  この口調、何やら少し嫌な予感がするのだが……。 「いや、まだ考えてないけど……まさか、うちで夕食まで食べていくつもりじゃないだろうな?」

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