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第1053話
唐突にピピの鳴き声が聞こえて、アクセルは足を止めた。周囲をきょろきょろ見回し、うさぎの姿がないか確認する。それっぽい生き物はいないのだが……気のせいだろうか。
――俺も大概どうかしてるな……。
寂しいと思っていたから、幻聴が聞こえたのだろう。自分もまだまだメンタルが未熟だ。永遠に独りぼっちというわけではないのだから、気持ちを切り替えて鍛錬に励まなきゃダメじゃないか……。
やれやれ……と自分自身に呆れつつ、再び走り出そうとした時、
「ぴー」
「……え?」
もう一度声が聞こえた。
――やっぱり幻聴じゃない……!
絶対にピピが近くにいる。頑張って帰ってきてくれたはいいけど、兄に斬りつけられた手前、怖くてなかなか出て来られないのだ。きっとそうだ。
アクセルは歩き回りながら声をかけた。
「ピピ、どこにいる? 大丈夫だよ、今は俺一人だ。兄上はいないから、怖がらないで出ておいで」
「ぴ……」
「いや、本当に。兄上は今隔離施設で治療中だから、家の中にもいないよ。突然襲われることはないから、大丈夫だよ」
そう呼びかけたら、ようやくピピはチラッと顔を覗かせた。ピピは家の裏手にある武器倉庫の更に裏に隠れていた。
「ピピ……!」
もふもふの大きなうさぎが視界に入った途端、走っていって正面からぎゅーっと抱き締めてしまった。ふかふかの毛並みが心地よく、温かい。涙が出そうだ。
「ああ、よかった……。ピピ、帰ってきてくれたんだな……。本当に嬉しいよ……ありがとう……」
「ぴー」
「それより、怪我は大丈夫か? 兄上に斬りつけられたんだろう?」
ピピの毛並みを撫でながら聞くと、ピピは少し首をかしげてたどたどしく答えた。
「いずみに、はいった」
「え? 泉に?」
うんうん、と頷くピピ。
「アクセル、よくけがしていずみにはいってる。だからピピもいずみにはいった。そしたらけが、なおった」
「そうなのか……。泉に入ろうなんて、ピピは賢いな」
オーディンの泉は、怪我をした神獣でも治せるのか。眷属 専用だと思っていたから意外な驚きだ。
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