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第1054話

 アクセルは少し視線を落として、言った。 「ごめんな……。あの時の兄上は、獣化の影響で具合が悪かったんだ……。帰ってきたらいっぱい謝らせる。本当に悪かった……」 「ぴ……」 「ところでピピ、お腹空いてないか? 昨日、食材たくさん買ってきたんだ。野菜スープでもフレンチトーストでも、好きなもの作れるぞ」 「ぴー♪」 「よし、鍛錬したら朝ご飯だ。その後は……そうだな、露天風呂でも作ろうか。ピピの小屋は新しく作り直しておいたからな。前より広くなったし、頑丈だぞ」  パタパタと耳を上下させ、嬉しそうに身体をすり寄せてくるピピ。  独りぼっちで寂しかった分、かなりの癒しになった。ピピがいてくれれば、兄がいなくても何とか生活できそうだ。  アクセルは庭に戻ってランニングを再開した。先程より足取りも軽く、タタタッと軽快に走ることができた。ピピもいつも通りぴょんぴょん跳ねながら、ランニングにつき合ってくれた。  何周かした後、ストレッチや素振りをし、汗を流すために外までシャワーを引っ張っていった。そしてピピの身体を洗いがてら、自分も髪や身体をくまなく洗った。 「なあピピ、昨日泉で怪我を治した後はどうしてたんだ? 山に帰ったのか?」 「ぴ?」 「俺、ピピを捜しに山に行こうと思ってたんだよ。痛い目に遭った場所に帰ってくるのは怖いだろうから、じゃあ俺が会いに行かなきゃって」 「ぴ……」 「本当に、よく帰ってきてくれたな……」  言っているうちに、また涙が出そうになった。  新しく小屋を作り直したとはいえ、もうピピは帰ってこないだろうと半ば諦めていた。  それに、山に捜しに行って運よく見つかったとしても、以前のように懐いてくれないかもしれない……とも思っていた。ピピはもともと臆病だから、一度傷つけられたら武器を持っている人間には二度と近づかないのではないか……と。  でも、予想に反してピピは戻ってきてくれた。そのことが本当に嬉しかった。

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