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第1057話
「というか、いっそ俺も獣化しちゃえば一緒の隔離施設に入れるんじゃないか? そしたら合法的に側にいられる」
「ぴぇ!?」
そう言ったら、ピピがびっくりして目を丸くした。慌ててぶんぶん首を振り、「だめだめ」と止めてくる。
「はは……だよな。ごめん、冗談だよ。そもそも俺、獣化の気配すらないし」
獣化の初期症状は、やたらとお腹が空いたり眠くなったり、ふとした拍子にムラッとしたりするそうだ。
今のところアクセルは、必要以上にお腹が空くことはないし、急に眠くなることもないし、誰かにムラッとすることもない。
こんな健康体では、いくら誘発剤を飲んでも意味がないだろう。
というか、自分まで施設行きになったらピピの世話をする人がいなくなってしまう。どちらにせよ、兄が戻ってくるまではどこかに行くわけにはいかない。
――そんなことより、鍛錬頑張らないとな……。兄上がいない間に、ランク上げるって決めたんだし。
すりすりとピピが鼻面を寄せてきて、アクセルは微笑みながらピピを撫でた。
朝食を平らげ、食器を綺麗に片づけ、その後溜まっていた衣類を全部洗濯した。一回では洗いきれなくて、結局三回も魔法のドラムを使ってしまった。
洗濯が終わった頃にはもうお昼近くになっていて、またもや食事の準備に追われる羽目になった。なんだか食事の準備ばかりしている気がする。
昼食はピピのリクエスト通り、大きなプリンを作った。それから野菜と肉を炒めつつ、小麦を練った団子を茹でてチーズクリームで味付けした。
「ピピ、ご飯だぞ」
ピピと一緒にベランダで食事をし、食後にはゆっくり紅茶を飲む。昨日、ユーベルがうちで食事をした際、「あなたにも分けてあげましょう」と言って茶葉をくれたのだ。さすがはユーベルが厳選しただけあり、味も香りも素晴らしかった。
「さて、と……。じゃあ露天風呂でも作るか」
これが本日のメイン業務だ。夕方までみっちり作業するとしよう。
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