1059 / 1998
第1059話
研究ついでに豆のスープを煮込み、いろいろ味付けを変えてみる。「酸味があった」というので、レモン汁を加えたりサワークリームを追加したり、あれこれ試してみた。
「ピピ、ちょっと食べてみてくれ」
「ぴ?」
出来上がったスープをベランダに持ち込み、ピピに頼んで味見してもらう。
ピピはふんふんと臭いを嗅いでいたが、一口食べて「あれ?」と首をかしげ、もう一口食べたが「うーん……」と皿から口を離してしまった。
「ぴぇ……」
「……美味しくなかったか? こういう味じゃないのかな……」
「ぴー……」
「アロイスの求めているスープがさっぱりわからん」
そもそも、食べたことのない料理を『ちょっと酸味のある豆のスープ』というざっくりした情報だけで再現しようとする方が無理がある。
試作するのはもっと詳しい情報を手に入れてからにしよう……と思い直し、アクセルは夕飯の調理を再開した。
ピピの野菜スープを新しく作り、自分の分のステーキを焼き、バゲットを少しスライスして簡単な夕食を仕上げる。今日は激しい鍛錬をしていないので、これくらいで十分だ。
ピピと並んでベランダで食事し、それが終わったら食器を洗って片付け、早々に寝る準備をする。
特にやることもないし、さっさと寝てしまおうと思って寝室に入ったのだが、一人でベッドに潜り込んでいたら胸の辺りがきゅうっと痛んできた。
――眠れない……。
目は閉じているのに、頭は不安で覚醒してしまって全然寝付けない。
兄はどうしているのか、いつ帰ってくるのか、治療は順調なのか……みたいな、考えても仕方がないことばかり頭に浮かび、また目頭が熱くなってきた。
とうとう我慢できず、アクセルはガバッと起き上がって自分の枕を掴んだ。そして庭に出て、新しく作ったピピのうさぎ小屋を訪ねた。
「ピピ、ちょっといいか?」
「……ぴ?」
「今夜は一緒に寝ていいかな……? 一人じゃ眠れそうにないんだ」
「ぴ……」
「いい大人が、みっともないのはわかってる。でもこのままじゃ、朝まで一睡もできなさそうで……」
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