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第1060話
「ぴー♪」
するとピピは「ようこそ!」とでも言うかのように、小屋の隅に寄ってスペースを空けてくれた。それだけのことだが、涙が出るほど嬉しかった。
「ありがとう。じゃあお邪魔するよ」
少し腰を屈め、小屋の中に入る。そして空けてくれたスペースに枕を置いて横になった。自分が足を延ばしてもまだ余裕があり、隣にピピがいてもさほど窮屈に感じない。我ながら、大きめに小屋を作っておいてよかったと思う。
「ピピ……」
アクセルはゆっくりとピピを撫でながら、呟くように言った。
「俺……兄上がなんで浮気しちゃうのか、ちょっとだけわかった気がする」
「ぴ……?」
「最初はホントに意味がわからなかったんだ。『ちょっと待てば必ず帰ってくるのに、なんでたった一日も我慢できないんだ』って……。俺が棺に入っている時だけ浮気するとか、俺に隠れて密会してるみたいでずっと腹立たしくてさ……。兄上のことは好きだけどそこだけは本当に理解不能で、何とかならないのかとずっと思ってた」
「ぴー……」
「……でも密会とか浮気とか、そういうことじゃないんだ。兄上はただ、一人の環境に耐えられないだけなんだ」
「ぴ……」
「俺もそこまで詳しく知らないけど、俺が生まれるまで兄上は、父も母もいない環境でずっと独りぼっちだった。弟ができてようやく孤独からは解放されたけど、今度は弟がいなくなることに強い恐怖を覚えるようになってしまった。だから、たった一日でも一人になると不安でたまらなくなるんだ。寂しくて寂しくて朝まで耐えられないから、他の誰かを求めてしまうんだ」
他の誰かというのは、特定の人物ではない。相手をしてくれるなら本当に誰でもよく、ジークでもユーベルでもミューでも――それどころか名前も知らない下位ランカーでもかまわないのだ。一時的な孤独を慰められるのなら、その後相手に恨まれようが兄にとってはどうでもいい。
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