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第1061話

「……兄上はきっと、俺が思っているよりずっと脆い。普段はあの通り飄々としているし、腕っぷしも強くて頼りになるけど……。本当の兄上は、今も昔も、愛に飢えた子供のままなんだ。俺の前だから、『お兄ちゃんらしくいなきゃ』って強がっているだけで」 「ぴ……」 「俺が頼りないから……いつまで経っても兄上に甘えてばかりだから……兄上も自分の弱さをなかなか表に出せないのかもしれない……」  我ながら情けない限りである。  兄を追ってヴァルハラに来たはいいものの、結局ここでも自分は何も進歩していないのだ。何かというと兄に助けてもらってばかりだし、基本的な鍛錬でさえも兄のアドバイスなしではなかなか上手くいかない。太刀筋矯正や、体幹強化がいい例である。  弟がこんな状態では、兄は「お兄ちゃん」の仮面を外すことができない。 「……ホント、情けないよな。兄上の家族は俺しかいないのに……最後に頼れるのは弟のはずなのに……俺、この歳になっても兄上に頼られたことがほとんどなくて……。ネガティブになったり、くよくよしたりするのはいつも俺で……本当は兄上だって弱音を吐きたい時もあるだろうに……」 「……ぴ……」  取り留めのないことを一方的に喋っているせいで、だんだんピピの相槌が曖昧になってきた。  半分聞き流しているのかもしれないが、アクセルは独り言のように喋り続けた。それくらいの方が、本気で聞こうとするよりかえって気が楽だった。 「……ただ、一度だけ兄上が俺に助けを求めたことがある。それが施設に預けられる時だ。あの時はだいぶ獣化が進んでいたけど、それでもハッキリと『アクセル、助けて』って言っていた。余程治療が嫌だったのか、『変な奴に連れて行かれる』って暴れて……」 「…………」 「だけど俺、初めて兄上が助けを求めてくれたのに何もできなかった……。あの時はどうしていいかわからなくて、ただ『頑張れ』って呼びかけることしかできなかった……。治療のためには見送るしかなかったんだけど、それでもやっぱり後悔してる。他に何かできることがあったんじゃないかと……」

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