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第1062話

 言いながら勝手に涙が溢れてきた。自分の不甲斐なさと、兄に対する申し訳なさで胸がいっぱいになり、心臓が千切れそうなほど痛くなってきた。  アクセルはぐすんと鼻をすすり、目元を拭いながら言った。 「俺はこれから、どうしたらいいんだろうな。……いや、もちろんいつも通り鍛錬はするけど。ただ、兄上が帰ってきた時、俺はどんな顔で迎えればいいのかなって……。唯一『助けて』って言った時に手を差し伸べられなかった弟が、これからも兄上の側にいていいのかどうか……」 「ぴー……」 「……こんなことをぐるぐる考えてたら、眠れなくなってしまった。ごめんなピピ……迷惑な飼い主で」  自虐気味に苦笑する。  ピピにも相当迷惑をかけている自覚はあるのだ。身体を洗ってあげるのも忘れてしまうし、いつも留守番ばかりさせているし、兄を止められなくて怪我までさせてしまう始末。そのくせ都合が悪い時はいつも縋りついてしまうし、本当にしょうもない飼い主だ。  もし自分がピピなら、こんなヤツさっさと見切りをつけて山に帰っていると思う。  ところがピピは、たどたどしい口調でこう答えた。 「ピピ、アクセルすき」 「えっ……?」 「おちこんでも、ないても、さみしくなっても、ピピはアクセルすき。ピピ、アクセルのみかた」 「ピピ……」 「ピピ、ずっとアクセルといっしょ」  何だか違う意味で涙が出てきた。どうしてそこまで自分を慕ってくれるのかわからないが、それでもピピの純粋な思いは伝わった。  アクセルはピピのもふもふな身体に顔を埋め、声を震わせながら言った。 「ありがとう、ピピ……。きみがいてくれるだけで、俺は随分救われるよ」 「ぴー」 「明日には露天風呂も完成するだろうから、出来上がったら一緒に入ろうな。俺はこんなだから、それくらいしかお礼できないけど……」 「ぴー♪」 「あと、また山に遊びに行こうな。新鮮な木の実や山菜、いっぱい集めに行こう。美味しいスープができるぞ」 「ぴ♪」  その後は他愛のない雑談をして、一緒に眠りについた。  ピピの隣は温かくて、一人で眠るよりずっと心地よかった。

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