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第1065話
「オレさ……あの日、宴会場の食事に誘発剤が仕込まれてたこと、何となく気付いてたんだ」
「……えっ?」
「あ、もちろんオレが仕込んだわけじゃないよ? でもその日の食事当番とか、出席者の人数とか……そういうことを踏まえると、『今日は誘発剤が盛られそうだな』ってのが何となくわかってくるのね。それでオレ、宴会場には行ったけど食事はしなかったわけ。でもフレイン様はガツガツシチューを食べてたからさ……」
「…………」
「こんなことになるなら、見かけた時にちょっと注意してあげればよかったな。オレ、フレイン様が獣化しかかってるなんて知らなくてさ。大抵の人は誘発剤盛られてもそんなに効かないから、『まあ大丈夫だろ』ってスルーしちゃったんだ。今更だけど、申し訳なかったなって」
「ああ、そういうことか……」
アクセルはちょっと眉尻を下げて苦笑した。
それだったら別にチェイニーのせいではないだろう。わざと誘発剤を盛ったならともかく、たまたま見かけただけなら何の責任もない。
責任があるとしたら、無知ゆえにあの時兄を止められなかった自分の方だ。
「……気にしないでくれ。たまたま不運なことが重なっただけだ。俺なんか獣化の傾向どころか、獣化が存在すること自体知らなかったしな……」
「アクセルは、誰かが獣化するところ見たことないんだっけ?」
「ないんだ。兄上が初めてだったから、必要以上に驚いてしまって」
「そうかー……。まあ、身内が急に変なことになったらびっくりするかもね。でも、獣化した人って大抵は一ヶ月以内に戻ってくるんだけどなぁ」
「え、そうなのか?」
「平均的にはそれくらいかな。仮に誘発剤を盛られてても、初期の段階ならそこまで時間はかからないと思うよ。治療が難航してるのかも」
「そんな……」
「あ、驚かしてごめん。お詫びにいいこと教えてあげるよ」
チェイニーは情報通らしく、こんな裏情報を教えてくれた。
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