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第1067話

 逃亡阻止のためなのかもしれないが、あんなところに兄が閉じ込められているのかと思うと胸が痛んでくる。早く解放してあげたい。  ……まあ、獣化が完治しないことにはどうしようもないのだが。 「あの……」  いきなり忍び込むのも何なので、アクセルは見張りらしき職員に声をかけた。 「ここで治療を受けている者の身内なんですが、お見舞いは可能でしょうか?」 「申し訳ありませんが、お引き取りください。治療中は、何人たりとも面会できません」 「はあ。では兄――フレインが今どんな状況かだけでも教えてもらえませんか? 完治まではまだ時間がかかるんですか?」 「申し訳ありませんが、それもお答えできません。お引き取り下さい」 「……なんでですか? 面会や差し入れが禁止なのはまだ理解できますけど、状況すら教えてもらえないのはおかしいと思います。俺は他人じゃなくて弟ですし」  そう食い下がったのだが、見張りの職員は鉄面皮のまま「お引き取り下さい」を繰り返すだけ。まるでロボットみたいだ。これ以上粘っても話が通じそうにない。 「……わかりました。もういいです」  埒が明かないと判断し、アクセルは門から離れた。やはり正面突破は難しいみたいだ。  ――しょうがない、チェイニーに教わった隠し通路を使ってみるか。  できるだけ穏便に済ませたかったが、何も教えてくれないのでは仕方がない。こちらは一応身内なのだ。家族には治療の経過を知る権利がある。  そう自分に言い聞かせ、アクセルは西に向かって歩いた。  一キロほど行ったところに、こぢんまりとした公園があった。遊具の類いはほとんどなく、小さな砂場とベンチ、古びたシーソーがぽつんと置いてあるだけである。公園そのものも使われている形跡がなくて、ベンチが浅く砂で覆われていた。  ――まるで隠し通路をカムフラージュするためだけに作ったような公園だな……。

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