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第1070話
ヤドリギを使えるなら、わざわざ戻ってくる必要なかったじゃないか。面倒なロープなど編まなくても、そのまま直接下りて行けたじゃないか。肝心なところで頭が回らなくて、自分の馬鹿さ加減に嫌気が差してくる。
ずーん……と落ち込んでいると、ユーベルが苦笑しながら言った。
「まあ、何事も焦りは禁物です。未知の場所に忍び込むなら、慎重にいくに越したことはありません。これでも食べて頭を回しなさい」
「えっ……?」
何かの瓶を差し出され、アクセルは反射的にそれを受け取った。透明なガラスの中に、濃黄色の液体が入っている。粘性が強いところからして、おそらくハチミツだろう。
「この間採集に行ったら大量に採れたんです。なので、あなたにもおすそ分けです」
「あ……ありがとうございます。わざわざこのために来てくださったんですか?」
「ええ、まあ。最近、死合いがなくて暇だったものでね。舞を披露する機会も少ないので、服のデザインか茶葉の調合か美容の書籍作りくらいしかやることがないんです」
……十分いっぱいやることあるじゃないか。
「あなたも、いくつか趣味を持ってみてはいかがですか? 木彫りはたまにやるみたいですが、それだけでは気晴らしにならないでしょう。どうせ時間は無限にあるんです、没頭できる趣味が多い方が楽しく暮らせますよ」
「……そうですね。ぼちぼち考えてみます」
「ちなみに、ユーベル歌劇団に興味が出てきたらいつでも入団可能ですからね。では、わたくしはこれで失礼します」
そのまま颯爽と離れて行こうとするので、アクセルは勢いのまま引き留めた。
「ユーベル様、ちょっと待ってください」
「何か?」
「ユーベル様、先程暇と言ってましたよね? 俺、これからグロアの隔離施設に忍び込むつもりなんです。一緒についてきてくれませんか?」
「……はい?」
こちらを見返したユーベルは、驚きというより呆れた様子で目を丸くしていた。
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