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第1086話

 怪訝に思い、アクセルは顔を上げた。 「使わない方がいいって、どういうことだ?」 「だって、なんかわざとらしいじゃない? そんな、最後の最後にこれみよがしに梯子がかけてあるなんてさー。今までは全然整備されてなくて、通りにくくて大変だったのに」 「それは……」 「だから、使わない方がいいと思ったのー。もしかしたら途中でボキッと折れちゃうかもしれないしー?」  言われてみれば、その通りかもしれない。絶対に罠とは言い切れないが、罠である可能性の方が高そうだ。ミューの言う通り、途中でボキッと折れてしまうかもしれないし。 「……わかったけど、それならミューはどうやってここを上ったんだ?」 「え? そんなの手足を突っ張って壁を上ったに決まってるじゃない」  ……そうか、さすがはミューだ。 「というわけで、しっかり捕まっててねー。……よいしょっ、と!」 「おおっ!?」  鎖を掴んだ途端、ズズズッと勢いよく上に引っ張り上げられ、あっという間に地上出口に辿り着いた。薄暗いところから一気に明るいところに出てきたので、目が慣れるまでにちょっと時間がかかった。 「助かったよ……。ありがとう、ミュー」 「どういたしましてー。帰ったらお礼に甘いお菓子作ってね」  もちろん、と答えたら、ミューは嬉しそうに笑った。こういうところ、純粋な子供みたいで好感が持てる。  鎖鉄球をくるくる巻き上げているミューを見ていたら、ふと当たり前の疑問が湧いてきた。  ――……って、なんでミューは自分より体重のありそうな男を平気で持ち上げられるんだ?  体重の軽い者が体重の重い者を井戸から引き上げようとしても、逆に引っ張られて穴に転落してしまうのがオチだ。ミューはもともと小柄だし、どこをどう見ても自分より重いとは思えない。  上位ランカーともなると、自分の体重もある程度操作できるようになるんだろうか。いや、さすがにそんな魔法みたいなことは……。

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