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第1087話

「あの……ミュー。きみ、俺より体重軽いよな……?」 「んー、多分? それがどうかした?」 「いや……なんで俺のこと引っ張り上げられたんだろうと思って……」 「えー、そんなの簡単じゃん。呼吸に集中して、えいっ! ってやればたいしたことないよ」 「……そうなのか?」 「そうだよ。強い戦士はみんな、自分の体重以上のもの持ち上げられるよ」  そんな常識のように言われても、少なくともアクセルは自分の体重以上の戦士を引っ張り上げる自信はない。兄だったら何とか頑張って引き上げてみせるけど、それも自分と同等の重さだ。  ――呼吸に集中、ねぇ……?  いずれ兄に教えてもらおう……と思いつつ、アクセルはパタパタと服の泥を掃った。そして目の前の施設を見上げた。 「やっと着いたね~、グロアの隔離施設! こうして見ると、普通の病院って感じだなー」  と、ミューがアクセルの気持ちを代弁してくれる。  確かに、見た目は普通の病院である。全面白塗りの壁は綺麗に掃除されているし、心なし少なく感じる窓も、ピカピカに磨かれていて清潔感が漂っている。  こちらは裏口だが、裏口のドア付近も清掃が行き届いており、本当に清潔な病院にしか見えない。  ただ――この異様な清潔さが、逆にうっすら不気味でもあった。  上手く言えないが、何というか……汚れた痕跡を一切許さないような、そういう徹底した潔癖さが滲み出ている。どことなく近寄り難い雰囲気すらある。  兄の様子を探りに……という大義名分がなければ、多分ずっと近寄らなかっただろう。 「ミューは何度か獣化の治療したことあるんだっけ?」 「あるよー。だから施設にも来たことあるよー」 「そうなのか……それなら頼もしいな」 「でも、施設の中って何でか知らないけど迷いやすいんだよねー。部屋の場所とか、毎回変わってる気がするの。トイレとか、この前は廊下の突き当たりにあったのに、今度は一階下の階段脇にあったりしてさー。漏れる前に辿り着くのが大変だったよ」 「そ、そうなのか……」

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