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第1088話

 トイレの有無はともかく、それは随分妙な話だ。部屋の場所が毎回変わるとか、そんなことあり得るのだろうか。  ――でも、そうか……ここはヴァルハラじゃないからな……。  グロアの隔離施設は、アース神族の世界(アースガルズ)の片隅にある。グロア自身もアース神族の一員だというし、アクセルの知らない魔法やら術やらを行使できるのかもしれない。  アクセルは深呼吸して気を引き締めた。 「……ミュー、なるべく慎重にいこう。油断は禁物だ」 「そうだねー。まあでも、ここまで来て中に入らないってのはナシだから、入ってからどう動くか決めよー」 「え、ちょっ……」  ミューは躊躇うことなく、堂々と裏口のドアを開けて中に侵入してしまった。やむを得ず、アクセルも急いで彼の後に続いた。置いてけぼりは困るが、正直、もっと熟考してから侵入したかった……。 「……!」  入った瞬間、驚いた。  目の前には、永遠に続きそうな白い廊下と無数の扉しかなかった。案内板らしきものはもちろんないし、目印となりそうな掲示物や置物も全くない。  ここまで何もないと薄気味悪さしか覚えず、易々と侵入したことを後悔しそうになってくる。  するとミューが、呆れたように腰に手を当てた。 「あー……このパターン、覚えがあるよ。本当にズラーッと同じような扉が並んでて、どこがどこだかさっぱりわからないの。施設の中が迷路状態なんだよねー」 「……そういう時はどうするんだ?」 「んー……自分で部屋を確認して片っ端から探し回るかー、もしくは施設の人を捕まえて道案内させるかかなー。施設の連中なら、どこに何があるかだいだい知ってるからさー」 「はあ。確かにそうだが、勝手に侵入した身で施設の人が道案内なんかしてくれるかな」 「まあそこは、ちょっと強引なことすれば言うこと聞いてくれるんじゃないかなー」  ……ちょっと強引なことってどういうことだ。あまり考えたくないんだが。

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