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第1089話
「ま、まあとにかく、最初はこっそり様子を窺おう。誰かに見つかると面倒なことになりそうだしな」
「そ? じゃあまずは偵察でー。抜き足、差し足、忍び足~っと♪」
歌うように言って、わざとらしくちょこちょこ足を動かしているミュー。
言動はともかく、足音は全く聞こえなくて、そこはさすがにランキング一位の戦士だけのことはあるなと思った。おそらく気配も消しているのだろう。
――俺もなるべく気づかれないようにしないと……。
ミューに倣ってこっそり歩きつつ、一番手前にあった部屋のドアノブに手をかける。人の気配は感じないけど、何が飛び出してくるかわからない。
いつでも抜刀できるよう柄に手を添えながら、アクセルは薄くドアを開けた。
「……!」
隙間から見えたものに驚愕する。そこはもはや部屋の中ではなかった。
「ん? 何かいたのー? 僕にも見せてー」
そういって、ミューが堂々と部屋を開け放つ。
目の前には、広々とした砂浜と海があった。施設内にいるとは思えないほどの広大さに、思わず度肝を抜かされてしまう。これは一体どういうことなのだろう。
「あ、ここは海なのかー。いいなー、僕が施設にいた時はこんな部屋なかったよー。ちょっと遊んでいきたくなっちゃうね」
「……いや、それはちょっと。というか、施設内には外に繋がっている部屋がたくさんあるのか?」
「あー。これ、広く見えるけど別に外に繋がってるわけじゃないんだよねー。海を泳いでいくと見えない壁みたいなのに当たって、それ以上先に進めなくなるの。部屋の広さに応じて行き止まりが決まってるんだよねー」
「……そうなのか。じゃあ外に繋がっている部屋から緊急脱出することはできないわけだな……」
いざという時の逃走経路に使えるかと思ったが、さすがにそこまで甘くないらしい。
仕方なくアクセルはドアを閉め、次の扉に向かった。
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