1092 / 1998

第1092話

「あ、ああ……確かに。何の気配も感じないのも妙だ」 「もしかして、わざと泳がされてる? なんかヤな感じー。泳ぐのは海だけにして欲しいなー」 「……ま、まあとにかく、もう少し様子を探ってみよう」  次の部屋は、全面白塗りの何もない部屋だった。家具もなければ窓すらなく、本当に全面真っ白だった。床も壁も白いので、どこが境目からわからなくなるくらいである。  なんとなく閉塞感が漂っていて、正直あまり長居したい場所ではない。 「つ、次に行こうか。こんなところにいたら息苦しくなりそうだ」 「えー、もう行くの? この部屋見たことないから一周してきたいんだけど」 「一周も何も、何もないんだから走ったって収穫はないん……って、おい!」  アクセルの言葉を無視し、ミューは右回りに壁沿いをタタタ……と走り始めた。まったく、本当にマイペースなヤツだ。  置いていくわけにもいかず、アクセルは扉の近くで走っていくミューを眺めた。  ――しかしこの施設、やっぱり普通の建物じゃないんだな……。  獣化の治療を行う場所だから、一般的な病院みたいな施設かと思ったら全然違った。室内に海があるのもそうだし、同じような扉が全く違う場所に繋がっているのも不思議だった。職員と誰一人遭遇せず、患者らしき人が誰もいないのも気になった。不気味ですらある。  ――何事もなく帰れればいいけど……。  兄の現状を知りたい一心でここまで来たが、本当に忍び込んでよかったかどうかはまだわからない。未知の部分が多すぎて、これから先何が待ち受けているか想像できなかった。  今はこれといった事件は起きていないけれど、平和に帰宅するのは難しいかもしれない……。 「……あっ」  その時、唐突にミューが小さな声を上げた。  次の瞬間、白い壁がパタンと開き、吸い込まれるようにミューが壁の中に消えてしまった。 「えっ!?」  慌てて駆け寄り、壁をどんどん叩く。  先程は回転扉みたいなものがくるっと開いていたのに、それらしき割れ目も隙間もなかった。本当に一面ただの白い壁になっていた。

ともだちにシェアしよう!