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第1093話

「ミュー!? ミュー! 大丈夫か!? いるなら返事してくれ!」  どんなに声をかけても、壁を叩きまくっても、返事らしき返事は聞こえてこない。  一体どこへ消えてしまったのか想像がつかず、アクセルは腹の底から不気味さを覚えた。  ――どうしよう……。  自由奔放だったが、それでもいてくれるだけで安心感があった。自分の都合で忍び込んだとはいえ、一人で行くのと二人で行くのとでは全然違う。  ここから先は、自分一人で進まなければならないのか。明らかに罠が仕掛けられていそうな場所なのに、大丈夫だろうか。ミューが戻ってくるのを待っていた方がよくないか。  白い壁を睨みつけながらぐるぐる悩んだ挙句、アクセルはくるりと壁に背を向けた。  ――先に進もう。兄上が待ってる。  ミューだったら、壁に飲み込まれても内側から力ずくで破壊してしまいそうだ。それがないということは、どこか別の場所に飛ばされた可能性がある。つまり、ここで彼を待っていても意味がない。  自分にできることは、罠にかからないよう慎重に先に進むことだけだ。  アクセルはなるべく音を出さないよう慎重にドアを開け、次の部屋に進んだ。  ――次は……寮部屋、みたいなところか……。  比較的広い部屋に、机とベッドがそれぞれ三つ並べられている。室内には誰もいなかったが、そのどれもに使われた形跡があって、一番手前のベッドに至ってはまだ少し温もりが残っていた。たった今まで誰かがいた証拠だ。 「ん……?」  起き抜けでぐちゃぐちゃになっているベッドに、その人のものと思しき髪の毛が数本抜け落ちていた。銀杏のように綺麗な金髪で、毛質が柔らかくふわっとしている。長さもほどほどで、ショートボブかそれよりやや長いくらいの髪の毛だった。  ――これ……これって、まさか……。  ドクン、と心臓が大きく跳ねた瞬間、背後でガチャ、とドアが開く音がした。  アクセルは反射的に抜刀し、振り返りざま二振りの小太刀を構えた。

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