1108 / 2012
第1108話
怒号や悲鳴が飛び交う中に、肉の斬れる音や骨が砕ける音も混じっていた。濃厚な血の匂いがツンと鼻を突き刺したが、それが誰の血なのか今のアクセルには判断できなかった。
「ぐっ……」
バタリと目の前に兄の一人が倒れてくる。彼の顔は血で汚れ、斬られた衝撃で身体が細かく震えていた。よく見たら、臍から下がなくなってしまっている。
「アクセ、ル……」
斬られた兄がこちらに手を伸ばしてきた。アクセルも一生懸命力を込めてその手を掴もうとした。
だが次の瞬間、トドメの一撃が兄の頸椎を貫き、兄は刺された衝撃で大きく痙攣した後、動かなくなった。宝石のような青い目はこちらを見据えたまま、完全に光を失っていた。
――兄上……。
霞んだ視界から、ぽろりと涙がこぼれ落ちた。
今起きていること全てを理解できているわけではない。
けれど、自分の目の前で兄の一人が死んだ。それだけは間違いようのない事実だった。そのことが、ただただ悲しかった。
「アクセル……!」
悲しみに浸っている間もなく、すぐさま別の兄がすっ飛んできて自分の身体を抱き上げた。この兄が本物か偽物か、最早どちらでもいい気がしてきた。
「大丈夫!? しっかりするんだよ! 今身体を洗ってあげるから……ああ、本当にごめんね……!」
膝裏に腕を入れられ、横向きにどこかへ運ばれていく。
自分がこの後どうなるかわからなかったが、兄に抱っこされている安心感と心身の疲労から、とうとう目を開けていられなくなった。
アクセルは兄に寄りかかりながら、すうっと意識を手放した。
***
それから何時間経っただろうか。アクセルは何ともなしに目を覚ました。
「……それで? 残ったヤツはもういない?」
「多分ねー。部屋ごと全滅させたから、他にはもういないんじゃないかなー。どこか別のところに隠れてたら知らないけどー」
「……それはちょっと不安だな。もう一度じっくり捜してみようか」
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