1109 / 2012
第1109話
「捜したところで、とっくに逃げちゃってるかもしれないよー。向こうだって、むざむざ殺されるのを待ってるわけないしー」
兄の声が聞こえる。会話の相手は……ミューだろうか。
耳は聞こえるけど、頭がぼんやりしてここがどこだかわからない。身体も痛いし、自力で起き上がるのも難しかった。
本当は、早く兄と話して状況を確認したいのだが……。
「……アクセル?」
こちらが目を覚ましたことに気づいたのか、兄がベッド脇に寄ってきて顔を覗き込んできた。
「アクセル、起きたの? 身体の調子はどう? 起きられる?」
「あ……え……」
「ああ、無理しないで。今は安全なところにいるから、安心して休んでて」
起き上がろうとしたアクセルの上半身を支え、優しく手助けしてくれる。
服はもともと着ていた普段着ではなく、病院の検査着のような簡易な服装になっていた。
「あ……あの……」
「あ、ここはね、一応まだ施設の中なんだ。でも施設の連中が邪魔しに来ない安全な部屋を選んだつもりだよ。ミューもいるし、誰かが来ても追い払ってくれると思う」
「やっほー、アクセル。なんか大変な目に遭ったみたいだねー。もうコピーはいないから、ちょっと休んだらヴァルハラに帰ろー」
しれっとミューが手を振って来る。
壁に飲み込まれて行方不明になっていたミューだったが、どうやら無事だったようだ。やはりというか、さすがというか……。
「あ、の……」
かすれた声で兄を見たら、兄は「まずは水分補給を」とグラスに入った水を渡してくれた。アクセルの好きなハチミツ入りのレモン水だった。
それを一気に半分ほど喉に流し、改めて尋ねる。
「あの……あなたは、その……兄上、なんだよな……?」
「そうだよ。私こそが本物のフレイン。お前の兄だ」
「それじゃあ……俺が会った三人の兄上は、一体……」
「……あれは私のコピーだよ。この施設で、グロアがこっそり作って研究に使っていた私の写しみたいなものさ。悪趣味以外の何物でもないけどね」
「コピーって……」
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