1112 / 2012

第1112話

 またもや怪しげな言葉が出てきて、アクセルは眉をひそめた。  これ以上は聞きたくなかったが、ここまで来たからには全てを知って帰りたいような気もした。 「私はお前より、母上の血が濃いからさ」  兄が小さく苦笑した。 「母上に似たコピーをたくさん作って、母上の記憶を擦り込んだら、誰か一人くらいは母上と同じような存在になるんじゃないか……グロアはそう考えていたらしい。もちろん言うほど簡単にはいかなくて、記憶を擦り込んだつもりが私と似たような思考回路になってしまったり、身体と精神がマッチしなくて廃人同然になってしまったりね」 「そんな……」 「お前に手を出してきた連中は、私と同じ思考回路になった失敗作なんだ。脱走されると困るから、近いうちに廃棄される決まりだったけどね。勝手に作られて勝手に失敗作と言われて勝手に廃棄されるとか、いい迷惑だよ」 「…………」  自分を囲んでいた兄たちの顔が思い浮かんだ。  彼らは全員本物と変わらない顔と身体を持っていて、思考回路や口調まで本物と同じだった。長年一緒に暮らしていたアクセルでさえも、本物との見分けがつかないくらいだった。おそらく兄たちも、「自分がコピーである」という意識はなかったであろう。斬られる寸前の問答で「私たちだって本物だよ」と言っていたのが聞こえた。  それでも、グロアにしてみれば彼らは「失敗作」で、必要がないから廃棄される運命だったという。 「……兄上……」  ぼろりと涙がこぼれ落ちた。  あの兄たちは、一体何を思って自分を抱いたんだろう。自分たちがいずれ廃棄されることを知っていたんだろうか。それで束の間の快楽を求めたんだろうか……。  そう思えば思うほど、どうしようもなく胸が痛くなり、涙が溢れて止まらなくなる。 「あああ……アクセル、ごめんね……泣かないで……」  兄が横から慰めるように抱き締めてくる。この体温も、コピーたちと全く同じだった。

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