1113 / 2012

第1113話

「辛かったよね、いきなりあんな風にやられて……。私がもっと早く助けてあげられれば、あんな目に遭わなくて済んだのに……。本当にごめん……兄失格だ」 「……違う……」 「えっ?」 「……違うんだ、そうじゃない……俺のことじゃないんだ……」 「え……でもお前、あいつらにあんなこと……」 「俺のことはいい……それより兄上の方がずっと……」  ひっく、としゃくり上げる。  これ以上は上手く言葉にならない。少なくとも、本物の兄にはどう説明していいかわからない。「コピーの兄上たちがあまりに可哀想で」なんて言ったら、「お前は私よりコピーの方が大事なの?」と怒られてしまいそうだ。  ――でも……俺にとってはあの人たちも、間違いなく「兄上」だったんだ……。  本物の兄にとってはコピーでも、アクセルにとっては久々に会った兄だったのだ。姿かたちも同じ、口調も性格も同じ――ついでにシンボルの感触も全く同じで、本物との区別すらできなかった。  いきなりさんざんな目に遭ってしまったけれど、こうして一難過ぎ去ってしまえば「お茶でも飲みながらゆっくり話をしたかった」という気持ちが芽生えてくる。  それに……。  ――最期の兄上の顔が、どうしても忘れられなくて……。  死の間際、兄はこちらに手を伸ばしてきた。最期に弟に触れたかったのか、弟に助けを求めたのか、今となってはもうわからない。  ただ、アクセルには兄が生きようとしているみたいに見えた。  例え勝手な思惑で作られた存在であっても、彼らだって幸せになりたかったはずだ。好きな人と一緒に暮らして、いろんなところに行って、たくさん思い出を作って、自由を謳歌したかったはずだ。  本物の兄に向かって「お前ばかりずるい」と言っていた気持ちが、痛いほどわかる。  他にどうすればよかったのかはわからないけど、「廃棄」以外の方法もあったんじゃないかと思えてならない。  だけどアクセルは、結局何もできずに兄たちを死なせてしまった……。

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