1114 / 2012
第1114話
「兄上……う……わああぁん!」
アクセルは兄に縋りついて泣いた。十六歳の頃、兄が戦死した時よりずっと胸が痛かった。
「……アクセル……」
兄はそれ以上何も言わず、静かにこちらを抱き締めてくれた。兄自身も、本気で号泣している弟をどう慰めていいかわからないようだった。
そうやってしばらく子供のように泣きじゃくっていると、
「あ、変な人が来た」
「……!」
ミューがサッとドア付近から飛び退く。
堂々とドアを開けて入ってきたのは、白い頭巾を被ったグロア本人だった。取り巻きの職員はおらず、自分一人で乗り込んできている。
グロアはこちらを見据え、淡々と言った。
「外部との接触は禁止と言ったはずですよ」
「それが何? 何か問題でもあるのかい?」
兄が嫌味たっぷりに言い返している。
「接触禁止なのは治療中の戦士 のみだよね? 私の獣化はもう完治しているから、いつヴァルハラに帰っても問題はないんだ。そっちこそ、これ以上私を引き留める理由はないはずだろう?」
「あなたにはまだやってもらいたいことがあるのです。弟も来たならちょうどいい。一緒に実験につき合いなさい」
「そう言われて、『はいそうですか』って従うと思った? 私だけならともかく、うちの弟まであんな実験につき合わせるわけにはいかない。私は弟とヴァルハラに帰るよ」
「今更逆らうのですか? あなただって、まんざらでもなく遺伝子を提供していたでしょうに」
「えーっ? フレインったら、ノリノリで実験に協力してたわけ? ちょっと引くー」
ミューが白い目で兄を見ているので、アクセルも兄に目を向けた。
遺伝子を提供? 実験に協力? 一体どういうことなのか。兄自ら率先して、自分のコピーを作ることに協力していたわけでは、ない……よな……?
「変な言い方やめてくれないかな。おかしな拷問を仕掛けてきたのはきみの方じゃないか」
すると兄は、さも心外だとでもいうかのように反論した。
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