1115 / 2012

第1115話

「私の遺伝子を無理矢理搾り取って、それを元にコピーを作ったのはきみだろう? 私が悪いみたいに言わないで欲しいね」 「ですから、今度は拷問ではなく弟と一緒に遺伝子を搾り取ってあげると言っているんです。あなた方にとっては、いつものことではないですか?」  不意にグロアが視線をこちらに向けてきて、嫌な意味でドキッとした。背筋がぞっとし、思わず兄の服の袖を握り締める。 「あの、兄上……おかしな拷問って……」 「……まあ、いろいろだよ。お前は知らなくていい」  そう言葉を濁されたので、アクセルは何となく内容を察した。  遺伝子を搾り取るということは――血を採るという意味でないのなら――搾取するものは、汗か唾液か精液くらいしか考えられない。  汗や唾液だったら言葉を濁す必要もないから、搾取されていたものはつまり……。 「とにかく、まだあなた方には協力してもらいたいことがあるのです。いずれ弟の方も呼び寄せるつもりでしたし、ちょうどいい。……逆らったらどうなるか、わかっていますね?」  と、グロアが隠し持っていた針のようなものをチラつかせる。 「ここに入っているのはただの誘発剤ではありません。獣化の進行がゼロの戦士(エインヘリヤル)でも、問答無用で獣化させられる特殊な薬です。直接注入してもいいですが、霧状に散布するだけでも十分な効果が得られます。ちなみに、私には効果がありませんので悪しからず」  ニヤリと口角を上げるグロア。  そんなとんでもない薬まで持参してくるところからして、彼女も本気なのだと窺い知れる。獣化している戦士はヴァルハラに帰れないから、自分の気が済むまで実験に付き合わせるつもりでいるのだろう。 「今度は脅しかい? やってることが下衆すぎて笑いも出てこないね」  兄も負けじとグロアを睨み返す。どちらも、自分の意志を曲げるつもりはないようだ。  兄は愛用の太刀に手をかけて斬りかかるタイミングを窺っているし、グロアの方も毒針を構えていつでも薬を散布できるような状態になっている。

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