1116 / 2012
第1116話
「……もうやめてくれ」
いても立ってもいられず、アクセルは寝ていたベッドから下りた。腰が少し痛んだが、かまわずグロアを見据えた。
「……アクセル、お前はおとなしくしていなさい」
兄がやや焦ったように声をかけてくる。
だがアクセルは、きっぱり首を横に振った。
「……いや、これは俺も関係していることだ。俺にも少し言わせてくれ」
もう、こんな悲しいことはやめてもらいたい。
グロアにとって母が大切な存在であるように、アクセルにとって兄は何より大事な存在なのだ。兄が実験につき合わされるのも嫌だし、コピーの兄の死に様を見るのも御免である。
でもグロアはきっと、母と再会するまで実験をやめないだろう。
そうなってしまうと、新しい妥協点を見つけない限り、いつまで経っても同じことの繰り返しになる。
だから……。
「……グロアさん、あなたに言いたいことがあります」
「お説教を聞くつもりはありません。私は私の目的を果たすだけです」
「……いえ、説教ではありません。大切な人を蘇らせたいという気持ちは、俺にもよくわかりますので」
「……では、何が言いたいんです?」
怪訝な顔をするグロアに、アクセルは淡々と言った。
「そろそろ、やり方を変えてみたらどうでしょうか。あなたがこれまで何度実験を繰り返したか知りませんけど、何度やっても母は蘇らなかったんでしょう? これ以上、兄のコピーを生み出しても時間と労力の無駄になるんじゃないかと思って。要するにあなたは、母に会いたいんですよね? だったらいっそのこと、あなたが母と同じ場所に行ったらどうでしょうか」
そう言ったら、グロアは目を丸くした。兄でさえも「お前は何言ってるの」という顔をしている。
「それは……私に死ねと言っているのですか?」
「いいえ、死ぬんじゃありません。母がいる場所に行くだけです」
「……いや、それ結果的には同じことだよ」
兄が小声で突っ込んできたが、アクセルはかまわず続けた。
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