1117 / 2012
第1117話
「自分で言うのもなんですが、母は非常に気まぐれで自分本位な性格でした。あなたは母に会いたいでしょうけど、母からしてみれば急にあなたから呼び出されたのと相違ありません。唐突に叩き起こされるのと同じです。そんなことされたら、間違いなく機嫌を損ねてしまいます」
「…………」
「そういう意味でも、グロアさんの方が母のところに行った方がいいのではないかと。これ以上、成功するかどうかわからない実験を続けるより、そっちの方がよっぽど確実じゃないですか? 悲しい思いをする人もいなくなるし、周りにとってもWIN-WINだと思うんです」
「それは……」
グロアが初めて視線を泳がせた。彼女自身も、同じことを繰り返してばかりで本当にいいのか、やや迷っている様子だった。何体もコピーを作っておきながら、一向に結果が出ないから焦っているのかもしれない。
アクセルは更に畳みかけた。
「そろそろ、やり方を見直してみる時期ですよ。何度も同じことを繰り返して、それでも結果が出ないのなら、それはやり方が間違っている証拠です。母に会いたいなら、もっと他に方法があると思います。俺はグロアさんのこと、応援してますよ」
「ええ……? 応援するの……? さすがにそれはちょっと……」
と、再び兄が小声で突っ込んでくる。「もういいから」としきりに腕を引っ張ってきたが、何故そんなに止めてくるのかアクセルにはわからない。こちらは真面目に提案しているのに。
「……。そうですね……」
グロアは力なく毒針を持った手を下ろした。それを見て、一番驚いているのは兄・フレインだった。
「……彼女は本当に、自由奔放で気まぐれな人でした。透ノ国に閉じ込められても事あるごとに抜け出ようとしたり、自分がした予言と真逆の行動をとってみたりと……予言の巫女であることに囚われないような生き方をしていました。巫女・グロアとしてこの施設で過ごし、怪我や治療をするのが当たり前として生きてきた私からすれば、まるで太陽のように輝いていました……」
「グロアさん……」
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