1119 / 2012
第1119話
「……えーと? この薬、グロアには効かないんじゃなかったっけー?」
黙ってやりとりを見守っていたミューが、空っぽになった毒針を手にする。グロアが握っていたのでよく見えなかったが、単純な毒針というより注射器みたいな武器だったようだ。
兄が小さく肩をすくめる。
「本人はそう言ってたけど、実は違ったってことだね。まあ、仮に毒にも薬にもならないような代物だったとしても、全量を一気に注入すれば具合が悪くなるのは当然だし」
「そっかー。なんかよくわからないけど、やっと終わってよかったよー」
「そうだね。私もこれで、心置きなくヴァルハラに帰れる」
そう言って兄は、くるりとこちらに向き直った。そして真っ直ぐ手を差し伸べ、満面の笑みをこぼした。
「さ、帰ろうか。ピピちゃんも待ちくたびれてるよね?」
「あ、ああ……そうだった。ピピを茂みに隠したままだった」
いざという時の逃げ足のために待機してもらっていたが、結局活躍の機会はなくなってしまった。連れてくるだけ連れてきて、何時間も待たせてしまって申し訳ない。
アクセルは兄に連れられ、施設の正面玄関から堂々と外に出た。
出口に辿り着くのもそれなりに苦労するかなと思ったが、一階まで階段を下りたらすぐに正面玄関が見つかった。グロアが亡くなったから、迷いの術が解除されたのだろうか……。
「ぴー!」
外に出た途端、ピピが隠れていた茂みからすっ飛んできた。
長時間待たせていたせいかかなり心配させてしまったようで、耳をパタパタさせながらもふもふの巨体をすり寄せてくる。
「ピピ、ずっと待っててくれてありがとう。心配させてごめんな」
「ぴー!」
「ピピちゃん、久しぶりだね。私のこと忘れてない?」
「ぴ♪」
「ならよかった。いろいろあったけど、何とか戻ってこられたよ。さ、みんなでヴァルハラに帰ろうか」
アクセルはピピの背中に乗せられ、兄とミューは自分の脚で歩いて帰った。
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