1120 / 2012

第1120話

 本当は「自分で歩けるから」と断ろうとしたのだが、 「何? お前、ピピちゃんをずっと待たせた挙句、仕事も与えないつもり?」 「そ、そういうわけでは……。ただ、自分で歩けるのに運んでもらうのは申し訳ないと……」 「いいじゃないか。ピピちゃんだって乗ってあげた方が喜ぶよ。ね、ピピちゃん?」 「ぴー♪」 「ほら、遠慮せずに乗りなさい。お前、まだ腰が痛いんだろう?」 「っ……」  ストレートにそんなことを言われ、ちょっとバツが悪くなった。兄のコピーたちとの出来事を思うと、この期に及んでもやや複雑な気持ちになる。 「はー、なんか疲れたー。思った以上の大冒険になっちゃったよ」  と、ミューが大きく伸びをする。「楽しそうだから」という軽い気持ちでついてきた身からすれば、巻き込まれ事故みたいなものだろう。 「そういやアクセル、ユーベルから美味しいハチミツもらったんでしょ? 帰ったらそれでお菓子作ってー」 「あ、ああ……それはもちろん。ケーキでもクッキーでも、好きなもの作ってあげるよ」 「やったー。アクセルのお菓子、楽しみにしてるー」 「でもミュー、お菓子は明日以降でいいよね? さすがにちょっと休みたい」  兄がそう窘めたら、ミューはあっさり「いつでもいいよー」と言ってくれた。  ヴァルハラに着き、ミューと別れて家に戻る。さすがに陽も暮れ、辺りもすっかり暗くなっていた。  施設に忍び込んでから丸一日は経っていないと思うが、それ以上の日数が過ぎてしまったようにも思える。それくらい濃厚な出来事だった。 「……お前、本当に大丈夫?」  兄が気を遣って寝間着を持ってきてくれる。 「いろいろあったし、今日は早めに休みなさい。明日もゆっくりでいいからね」 「あ、うん……ありがとう。兄上こそ大丈夫か? おかしな実験に付き合わされていたって言っていたが……」 「私は平気だよ。ああいうのも、ある程度耐性があるからさ」 「耐性って……」  そんなことを言われると、余計に気になってしまう。まるで自分自身を全く大事にしていないみたいで……。

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