1124 / 2012

第1124話

 アクセルはホットミルクを飲み干し、空になったマグカップをサイドテーブルに置いた。 「……兄上、ありがとう。俺、あなたの弟に生まれてよかった」 「私も……お前の兄でいられてよかったよ。最悪の場合、コピーたちに兄の座を奪われていたかもしれないもの」 「……それはないと思うけどな。とにかく、二人で無事に帰ってこられてよかったよ」  そう言って、アクセルはわざと深く布団に潜り込んだ。これ以上コピーに関する話をしたら、雲行きが怪しくなりそうだったのだ。 「おやすみ、兄上……。明日からまた、いつも通りの生活に戻ろうな……」 「うん、もちろん。鍛錬したり買い物したり、デートしたりしようね」  小さく頷き、アクセルは目を閉じた。隣の兄も、もぞもぞと布団に潜り込んでくるのがわかった。  ――明日、朝起きたらまずは……。  ひとつ、やらなければならないことがある。  アクセルはそれを頭に入れ、そのまま泥のように眠った。夢の中では、たくさんの兄に囲まれて仲良く食事していた。 ***  翌朝。アクセルはいつもよりやや早く目を覚ました。  もっと寝ていたかった気もするが、幸せな夢が途中で途切れてしまい、起きざるを得なかったのだ。  やはりコピーの兄たちの幸せは、夢の中であっても長くは続かないのか……。 「…………」  アクセルはサイドテーブルに置いたままのカップを持ち、キッチンで綺麗に洗ってから普段着に着替えた。  そしてすぐさま朝の市場に行き、兄に似合いそうな華麗な花をたくさん買って花束にしてもらった。赤、青、黄色、ピンク……なかなか色鮮やかな花束になったと思う。  ――次は……。  急いで家に帰り、庭の片隅に土を盛る。途中でピピも起きてきて、「何してるの?」と手元を覗き込んできた。  アクセルは、小高く盛った土の周りに小ぶりの石を並べた。そして言った。 「もうちょっと石が必要かな。ピピ、探してきてくれるか?」 「ぴー♪」  ピピは素直に頷き、同じような大きさの石をいっぱい見つけてきてくれた。量が多すぎて並べきれないくらいだった。

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