1125 / 2012
第1125話
「……こんなもんか」
綺麗に形を整え、その前に買ってきた花束を置き、ヴァルハラ名物・ヤギの蜜酒を瓶ごと隣に並べる。そして静かに祈りを捧げた。
本当は人数分作ってあげたかったが、庭がこれだけでいっぱいになりそうだったので、とりあえずひとつだけ作ることにしたのだ。
「アクセル?」
「っ!?」
急に背後から声をかけられ、アクセルはびっくりして肩を震わせた。兄が起きる時間はもっと遅いはずだが、今日は兄も早めに起きたらしい。
「? おや、それは……」
「あ、いや、これは、その……」
「お墓、だよね。一応聞くけど、誰の?」
あまり言いたくなかったが、仕方なくアクセルは小さく答えた。
「……コピーの兄上たちを、きちんと弔ってあげたかったんだ」
「…………」
「あなたにとっては複雑な存在だろうけど、やっぱり死んでしまった人には花くらい供えたいから……。俺はほとんど何もできなかったし、せめてこれくらいはと思って……」
「……なるほどね」
「……俺の自己満足だってことはわかってるんだ。邪魔にならない場所に作ったし、兄上には絶対迷惑をかけない。だから、この墓だけは壊さないでおいてくれないか。骨も埋まっていないただのシンボルだけど、どうかこれだけは……」
「いいんじゃない? 死んだ者を埋葬するって大事なことだよ」
意外な答えが返ってきて、思わず「えっ?」と聞き返してしまった。
兄のことだから、「そんなもの作らなくていいよ」と怒るかと思ったのに。
「というか、どうせ作るならもっと日当たりのいい場所に作ればよかったじゃない。そんなところに作ったら、お墓にカビが生えそう」
「えっ……? いいのか? 本当に?」
「いいよ。そんな薄暗い隅っこに埋葬されるのは、私だって嫌だもん」
「…………」
「誤解しないで欲しいんだけど、私は別に、あのコピーたちと相性が悪かったわけじゃないんだよ。お前に手を出したり私の邪魔をしたりしなければ、それぞれ外に出て自由に幸せを掴んで欲しいとも思ってた。作られた存在であっても、生きる権利はあるはずだからさ」
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