1127 / 2012
第1127話
大量のホットケーキを焼き、片っ端から皿に盛ってハチミツとバターを添えて庭まで持っていく。そして三人で仲良く食事をした。昨夜は食事をとらずにそのまま寝てしまったため、家族全員揃うのはかなり久しぶりな気がした。
「山歩きするなら、軽食用意しないとだねぇ」
と、兄が楽しそうに言う。
「サンドイッチもいいけど、たまにはおにぎりが食べたいな。イノシシ肉のそぼろを具に入れて、周りには海苔を巻いてね。あ、シンプルに塩むすびでもいいよ。時間があったら、唐揚げや卵焼きも持っていきたいところだけど、さすがに今からそれを用意するのは大変だよね」
「いや、兄上のリクエストなら用意してもいいけど……なんかさっきから食べることばかり考えてないか? 獣化の症状がぶり返してきたんじゃないだろうな?」
「いやいや、まさか。単純にいろいろ食べたいだけだよ。お前の手料理、一ヵ月以上も食べてなかったんだもん。施設の食事はどうも味気なくて、食欲が湧かなかったんだよね」
「そうか……ならいいけどな。また獣化するなんて、俺は御免だぞ」
「私だって嫌だよ。ただの治療ならまだしも、変な実験に付き合わされるなんてもうこりごりだね」
……その「変な実験」の内容は気になるが、具体的なことはあえて聞かないでおいた。聞いたら胸糞悪くなるに決まっている。
「しかし真面目な話、私たち戦士 は誘発剤を盛られなくても、定期的にどうしても獣化の症状は出てきちゃうものでさ。そしたら次はどこに治療に行けばいいんだろうね? もうあの施設は使えないだろうし、治療してくれるはずのグロアも死んじゃったし」
「それは……」
言われてみれば、確かにちょっと不安だ。今は治療したばかりだから心配いらないが、数年後に自分が獣化したらどこで治せばいいかわからない。自分だけではなく、知り合いが獣化した時も行き先がなくて困ってしまう。
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